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2018.10.05
日本印刷産業連合会主催の公開フォーラム、『みんなで考えよう、デジタル時代の知的財産』が日本橋公会堂で開催されました。著名な豪華メンバーが揃う中で、なぜか私もお声掛けいただき、講演とパネルディスカッションに参加させていただきました。
最初の特別講演は、2020年オリンピック・パラリンピック東京大会のエンブレムの作者であるアーティストの野老朝雄さん。『個と群と律』というタイトルで五輪エンブレム誕生の経緯をお話しくださり、デザインの権利について問題提起をいただきました。また、ドラマ『下町ロケット』の神谷弁護士のモデルとなった鮫島正洋先生からは、中小企業の技術の権利化と収益化の難しさについて、専門的な見地からお話がありました。続いて、知的財産のオンラインプラットフォームや、福島の復興における産学官の取組について、具体的な成功事例の紹介がありました。
各分野の第一人者の方々のお話に続いて、私はいったい何をお話ししたらいいだろう?と悩んだ結果、エルメスで働いていた時の実体験をもとに、『ブランドって何だろう?』というテーマでお話をさせていただきました。
日本にはなぜ、ヨーロッパのような「スーパーブランド」がないのでしょうか。私は3つ理由があると思っています。ひとつは、日本のブランド商品は単品が多いことです。今治のタオルや鯖江のメガネなど、一つ一つは有名ですが、世界にアピールするためには、ライフスタイル全般にわたって様々なアイテムを取り揃え、ジャパンブランドとして束ねていく必要があります。
2つ目の課題は、日本には「高級品」の基準がないことです。一口に「ふるさと名物」といっても玉石混交です。フランスにはラグジュアリーを扱う会社だけが毎年互選で約80社から成るコルベール委員会という業界団体をつくり、政府にもしっかりロビイングしています。
そして最大の問題は、関係省庁が縦割りで束ねる組織がないことです。繊維産業・伝統工芸・クールジャパンは経産省、国際交流は外務省、文化芸術は文科省、食文化は農水省、観光立国は国交省、地方創生は内閣府…というようにバラバラなのです。民間のビジネスの種を政府がどうやって後押しできるかも課題です。
その後、内閣府知的財産戦略推進事務局の中野参事官から政府における知的財産の取組の全体像についてお話しいただき、パネルディスカッションへと移りました。
人工知能やInternet of Things(モノのインターネット)など、近年、ビジネスを巡る環境は急速なスピードで変化しています。印刷や情報文化に関わる中小企業にとっては、知的財産戦略がこれまで以上に重要となってきます。大企業と違い、中小企業では知的財産の専門家から支援を得ることが容易ではありません。最近は特許庁や弁理士・弁護士の方々のご尽力で各都道府県に知的財産の総合支援窓口が設けられており、積極的に活用していただきたいと思います。私自身も、現場の生のご意見を聞ける機会を大切にして、中小企業政策や知的財産政策の議論に生かしていきたいと思います。