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2025.01.06
昨年の暮れから、米国笹川平和財団の特任上級研究員の仕事をいただいています。今日の夜は、米国から来日された米国人女性医師の方々と、医師であり大学教授でもある三ッ林裕巳前衆議院議員と共に、「医療分野での女性活躍」について意見交換をさせていただきました。
私自身、小学校の卒業アルバムに「将来はお医者さんになりたい」と書きました。中学入試の直前に肺炎にかかってしまった私を救ってくれた近所の女性の内科の先生が憧れでした。数学と理科が苦手だったので高校生の頃に理系を諦めましたが、私が卒業した女子高では医学部を目指す生徒が3分の1を超えていた覚えがあります。その傾向は今も昔も変わらないようですが、女性医師の場合、出産・子育て等で仕事を続けることが難しい方々も多いと伺っています。
日本では、診療科目によって男女の偏りが非常に大きいことで知られています。皮膚科や麻酔科、眼科に女性医師が多い一方、外科や内科では少ない顕著な傾向が見られます。つい最近まで、大学病院ですら女性の当直室がなく、当直は男性がするもの、という意識が残っていたそうです。女性特有の性周期・更年期や子育ての負担を踏まえたうえで、女性医師が働き続けられるような環境整備を早急に行うことが不可欠です。
日本で近年いわれている医師不足の根本的な背景には、そもそも男女関係なく大学病院に医師が少ないことが挙げられます。日本では制度上、他病院に医師を派遣できるのは大学病院のみですが、20年前に新医師臨床研修制度を導入した結果、大学病院に残る医師が少なくなり、他病院の定員枠をいくら増やしても医師が増えないという現状があります。また、大学病院の勤務医の給与が非常に低いため開業を志向する医師が多いこと、MD(医学博士)を取得する人が少なく医学論文を書いても人事や給与につながらないことから日本は医学論文が非常に少なく中国にも抜かれている、等の深刻な問題があります。
一方、米国では、放射線科、眼科、麻酔科、皮膚科などがライフスタイルを最適化したい人にとって最適な診療科と考えられてきたようですが、それだけに競争も厳しく、他人と差別化するには論文も重視されるそうです。
各診療科の医師数は全国的に枠を管理しているのではなく、各大学と各病院がやりとりし、場合によっては州から要請を受けて枠が決まっていくとのこと。
開業医に関しては、日本と異なり、患者から高い専門性を求められることが多く、フリーアクセスではないため紹介がないと受診できないため、患者にとってゲートキーパーの役割を果たしており、日本のように地域によって開業が濫立するという状況にはなっていないようです。
「米国でも女性医師にとって、いわゆる『ガラスの天井』はあるのか?」という私からの問いに対しては、「1990年代の米国のメディカル・スクールで『女性でも外科医になれる、母になれる、何にでもなれる』と誇大なアピールがなされた反動で、2000年代前半には多くの女性外科医が鬱状態に陥った。今ではもう少し現実的な考え方をするようになった。女性医師でも例えば学部長に就任するような人は子どもがいない場合もあるし人それぞれである」という答えをいただきました。
医師の世界も、政治をはじめ他の世界も、女性が男性と全く同じにはいかない現実があります。しかし、多くの先輩方の努力のおかげで昔よりは確実に良くなっていることは確かですし、私達が日頃あきらめて甘受しているような状況も、他の国を見れば決して当たり前ではない、ということも多々あるように思います。変革のための努力を止めない、静かな勇気をいただいた貴重な対話でした。