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2023.07.03
新経済連盟主催のイベント JX Live! に出席しました。GXのラウンドテーブルに登壇し、経営者や有識者の方々とエネルギーや環境について議論しました。
討論の前半は、『民間の力によるGXの加速』について。クラウドワークスCEOの吉田浩一郎さん、ENECHANGE CEOの城口洋平さん、東京大学客員教授の吉高まりさんから、政府の政策に対する疑問や課題が寄せられました。ガソリン代や電気代に何兆円もの国費を支払いながら電気自動車の支援に数百億円しか出せないのはなぜか、日本企業が国際競争力を発揮できるような国際ルールになっていないのではないか、日本市場ではカーボン・プライシングの基準が確立しておらず将来を予測できない、等々。特に、日本政府の予算が単年度主義であることに対して、諸外国と異なり著しく予見可能性を害しているとの指摘がありました。
政治の立場から、まず柴山昌彦衆議院議員が、GX実現のカギとなる蓄電池の開発について、具体的なロードマップをもとにお話しくださいました。また私からは、①今後10年間で行う150兆円超のGX官民投資について、公共事業のように既存産業への配分を考えるのではなく、若い企業による技術革新やゲームチェンジをどこまで盛り込めるかが勝負であること、②GXを日本の経済成長に結びつけること、例えば太陽光パネルは中国製のシリコン型パネルの導入にとどまらず、ペロブスカイト太陽電池など日本の技術の早期実用化が経済安全保障にも資することをお伝えしました。
後半のテーマ『日本の成長戦略としてのGX』では、柴山議員からGX2法案の概要とGX推進機構について説明がありました。私からは環境省の施策として、①脱炭素先行地域による「地域のGX」、②高断熱窓への改修補助として1,000億円もの予算を講じた「くらしのGX」、そして③サステナブルファッションをご紹介しました。
議論を通じて強烈に感じたのは、GXを進める上で、これまでの延長線上ではない強力な官民協力体制が必要だということです。日本は環境後進国だといわれますが、環境の「技術」という点では決して欧米にひけをとっていません。日本が遅れているのは社会実装のための政策や制度であり、民間の自由なアイディアと突破力が不可欠です。
また、時代の先を読む視点も重要です。G7札幌環境サミットを通じて気づいたことですが、日本ではGXというと脱炭素を意味するのに対し、欧米では生物多様性保全や循環経済など含めた広い意味でGXを捉えています。脱炭素の取組が当たり前になった今、次なる国際的な議論で日本が先んじるためには、ビジネスの最前線にいる方々の肌感覚が何よりも重要です。
夜の特別セッションでは、若い世代の育成について、日本大学の林真理子理事長、東京芸術大学の日比野克彦学長、ノーベル賞受賞者で旭化成フェローの吉野彰先生によるセッションを拝聴しました。意外だったのは、人材育成や企業経営を考える上で「芸術」がキーワードだということ。人を育て組織を動かしていく上で、芸術こそが一人ひとりの気持ちに合った行動変容を可能にする、というお話でした。
ものごとを捉えるには理性と感性が必要です。私自身は、電気工学のエンジニアの父とピアノ教師だった母のもとに生まれ、経産省や経営コンサルなど、どちらかというと父親に近い、理性重視の仕事に就いてきました。人生で転機だったのは2回あります。1回目はエルメスに転職した時。母から授かったものをそれまで全く活かせていなかったことに気づき、感性と経営が融合する世界を非常に面白く感じました。ラグジュアリーブランド業界では、それをロジックとマジックと呼んでいました。2回目は環境省で国立公園の仕事をいただいた時。説明など要らない、ふるさとの国の自然の中に自分がいることを有難く感じました。
GXの実現には理性だけでなく感性も必要なのではないか?目標の達成に向けて死に物狂いで頑張るのではなく、産業のあり方、暮らしのあり方、地域との関わり方を従来とは違ったものにすることで目標に近づけるのではないだろうか?私達がまだ思いついていない新しいアプローチがあるのではないか?様々なことを考えさせられました。