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2023.02.12
世界自然遺産に指定されている、沖縄県のやんばる国立公園を視察しました。
沖縄島北部のやんばる(山原)には国内最大級の亜熱帯照葉樹林が広がり、ヤンバルクイナを始めとする多種多様な希少種が生息しています。日本の国土面積の0.1%にすぎないやんばる山村の森林に、日本で確認されるカエルの種類の4分の1、鳥類は半分以上観察できるという生物多様性を誇っています。
2016年に国立公園の指定を受け十分な保護管理体制となったことにより、2021年に奄美大島、徳之島、西表島とともに世界自然遺産に登録されました。
沖縄県庁のある那覇市から車で約2時間、やんばる野生生物保護センター(ウフギー自然館)を訪問。やんばるの希少な野生生物や固有の生態系の数々が写真や模型で詳しく紹介されています。センター内には、環境省のやんばる自然保護官事務所と、地元3村(国頭村、大宜味村、東村)と県と環境省で構成される「やんばる自然体験活動協議会」が併設されています。世界自然遺産登録を受けて、この施設を「世界遺産センター」としてリニューアルする予定です。
ヤンバルクイナは沖縄北部だけに生息する固有種で、日本国内で唯一の飛ばない鳥類です。1985年には約1,800羽が存在していましたが、その後、沖縄南部からマングースが侵入してくるようになり、2004年には個体数が810羽まで激減してしまいました。
環境省と沖縄県では、2000年からマングース防除事業を開始。なんと沖縄本島を東西に横断する3本のマングース北上防止柵を設置しました(①大宜味村塩屋~東村福地ダム(SFライン)、②大宜味村塩屋~東村平良(STライン)、③県道14号線沿い)。西北のSFライン以北にはさらに約20,000個の罠を設け、2026年までにマングースの完全排除を目指しています。
マングースだけでなく、私たち人間の行動も野生生物の敵になり得ます。ヤンバルクイナやケナガネズミなどが道路上で車に轢かれる「ロードキル」が後を絶ちません。環境省やNPOなどで傷病救護や死因究明を行ったり、国道事務所がフェンスやアンダーパスを設置するなどの対策がとられています。
国頭村にあるヤンバルクイナ生態展示学習施設「クイナの森」では、NPOによる施設管理のもとでヤンバルクイナの繁殖個体が一羽、飼育されています。我らのヒーロー「くー太くん」はとても人懐っこく、エサを食べる様子をガラス越しに見せてくれます。とても繊細な生き物で、つがいでの飼育は未だ多くの課題があるようです。
今回の出張の最大の目的は、やんばる国立公園内のナイトツアーへのモニター参加です。ツアーといっても観光ではなく、やんばるの希少な動植物を密猟や盗採から守るために夜間に行う林道パトロールです。観光庁の「サステナブルな観光コンテンツ強化モデル事業」を活用して、地元地域のNPO・団体や、観光協会、行政が連携してルールやガイドラインを作成しながら、保全活動体験型ツアーの作り込みに取り組んでいます。
夜の林道の途中で車を降り、懐中電灯を片手に林の中から生物を探し出すのは、たいへんスリルがあります。昼間降った雨が幸いして、世界一美しいと言われるオキナワイシカワガエルやヤンバルマイマイなどを見ることができました。松の木の枝にとまるつがいのヤンバルクイナを見つけたときには、一同思わず声をあげてしまいました。ツアーの名称である「AKISAMIYO」とは、沖縄の言葉で、まさにこういう時に口をついて出る感嘆の言葉だそうです。生物はもちろん、死骸、密猟の跡、不審な車両を見つけた時も、その都度GPSで位置を確認して用紙に記録していきます。
外来種との戦いは植物も同様です。やんばる地域の田嘉里集落では、南米・北米を原産地とするツルヒヨドリと呼ばれるツル性の植物の繁殖に悩まされています。1日に約10cm伸びるこの植物は、英語ではMile a Minute(1分に1マイル)とも呼ばれ、世界の侵略的外来種ワースト100にも挙げられています。環境省と沖縄県、地元自治体、さらにはJAL JTAグループなど民間企業も連携した駆除作業が行われています。
(後編)大石林山、辺戸岬、慶佐次湾ヒルギ林 はこちら↓
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