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2023.01.19

国立環境研究所を訪問

つくば市にある環境省所管の国立研究開発法人、国立環境研究所を訪問し、最近の調査・研究の動向をお伺いしてきました。

 

 

国立環境研究所は予算規模約200億円、研究者を含めスタッフ約千人弱を擁しており、現在の中長期計画では、①災害環境、②資源循環、③環境リスク・健康、④生物多様性、⑤地域環境保全、⑥社会システム、⑦地球システム、⑧気候変動適の8分野の基礎的取組と、中長期を超えた二大事業として①衛星観測と、②エコチル調査を掲げています。

研究棟や実験施設が集まる23ヘクタールもの広い敷地の約半分は緑の木々に包まれており、まさに”30 by 30”( 2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全しようとする目標)を先取りする豊かな自然に囲まれています。

 

 

①地球温暖化研究

日本は2009年に世界に先駆けて『いぶき』と呼ばれる温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT)を打ち上げ、13年以上にわたって宇宙空間からCO2とメタンの排出量を観測しています。来年には3号機が打ち上げ予定。蓄積されたデータは欧米の協力機関とも共有され、分析が進んでいます。下記の写真はGOSATの模型と、地上での観測装置です。

 

 

 

地球全体のCO2濃度分布の推移をみると、季節ごとに森林の光合成が盛んな地域が移動していくのがはっきりと分かります。温室効果ガスの観測は、宇宙からと地上から以外にも、民間旅客機の国際線にも観測装置を搭載することで、地表近くの濃度を各高度ごとにきめ細かく観測することが可能になりました。下記の写真で私が持っているのは、航空機で大気を採取する際の圧縮容器です。

 

 

 

COP27などの国際的な議論では、現在では排出量削減のルールや目標をどのように設定するかが議論の中心ですが、2030年が近づくにつれて、実際にルールが守られているか、目標が達成されているかどうかのモニタリングが議論の中心になります。日本の先進的な観測技術が世界標準になることを強く期待しています。

 

②海洋プラスチック

近年、マイクロプラスチックによる海洋生態系への影響が世界的に問題となっています。海洋や河川からマイクロプラスチックを採取し、分解・分離して粒子を解析することで、プラスチックの種類を同定し、毒性がないか等の調査を行っています。プラスチックにはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニルなどなど、様々な種類があります。マイクロプラスチックというと直径5mm以下のものを指しますが、さらに微小なナノプラスチックとなると、特殊な顕微鏡などの装置を用いなければ材質の同定も難しくなります。

マイクロプラスチックの対処にこれほどの労力がかかるのならば、プラスチック製造の段階で、廃棄物処理までを考慮した何らかの規制ができないか?輸入品や廃棄物の漂着なども考えると日本国内の取組だけでは不十分なため、アジア諸国も含めたルール作りや技術移転ができないか?等々、さらなる調査・研究が不可欠です。

 

 

 

③エコチル調査

エコチルとはエコロジー・チルドレンの略で、子どもの健康に影響を与える環境要因を解明するために、全国で10万組の親子の方々を対象として、赤ちゃんがお母さんのお腹の中にいるときから13歳になるまで健康状態を定期的に調べる調査です。子ども達の間で、ぜんそくや花粉症、アトピー性皮膚炎、肥満など様々な健康の問題が増えていますが、身の回りの環境要因など何が影響しているかを調べる大変貴重な調査です。10万もの方々に参加いただいている調査は世界的にも稀であり、日本で調査が始まった2010年よりも少し前、米国でも同様の試みがなされましたが、調査への協力者を集めることができずに断念したとのこと。日本の行政や関係機関の方々の丁寧な説明と、調査に協力してくださる方々の日本ならではの善意のお気持ちに拠るところが大きいと感じます。集まった情報や試料はたいせつに保管され、未来の子ども達のための研究に役立てられます。

 

④生物試料タイムカプセル

生物多様性保全のための研究を目的として、国内の絶滅危惧動物種の体細胞、生殖細胞、組織などをマイナス約150度の液体窒素タンク内に保存しています。凍結した細胞等は、絶滅原因の究明や感染症研究、個体増殖研究に使用が可能です。この液体窒素タンクは、先述のエコチル調査の試料の保存にも使われるものですが、民主党政権下の2010年、事業仕分けで予算が廃止されてしまい、やむなくクラウド・ファンディングで寄附を募る仕組みを立ち上げたとのこと。研究の意義と成果を多くの人々に知っていただきたいと思います。

 

 

 

⑤気候変動適応

国はもちろん企業や地方自治体など様々な主体が地球温暖化の緩和と適応に取り組むなかで、気候変動適応センターでは、必要となる科学的知見や取組事例などの情報を収集・分析して、国内やアジア各国に対して情報共有プラットフォームを提供しています。環境省では脱炭素先行地域の認定が始まっており、企業の財務情報もTCFDに基づく開示が広がりつつあります。現状では未だ、計画や目標の質が問われているにすぎませんが、いずれ近い将来、実際に計画が実行され目標が達成されているのか、排出量の計測が不可欠になります。事例やノウハウの蓄積に期待が高まるところです。

気候変動への適応に関しては、熱中症とスポーツに関する詳細なデータ分析や、気候変動に応じて酒蔵を寒冷地に移動させたり農作物の品種改良を行ったりなどの事例をご紹介いただきました。気候変動は子ども達にとって貴重な学びのテーマですが、クイズ形式で小学生にも興味を持ってもらえるようなガチャガチャや巻物などのグッズも揃っていました。今国会では熱中症対策の法案審議も予定されており、調査研究に基づく実効性のある議論が期待されます。

 

 

 

全体と通じて感じたのは、環境行政といっても霞が関で政策の立案を行っているのは氷山の一角にすぎないということです。いま国立環境研究所で地道に着実に行われている研究は10年後、20年後に大きく実を結ぶものであり、将来、日本が国際的な環境問題の議論の中でイニシアティブをとることができるか否かは、研究者の方々のご尽力にかかっていることを強く感じました。

地元つくば市の小学生は、夏に約5,000人もの生徒さんが国立環境研究所を訪れるとのこと、さらに多くの子ども達に国立環境研究所を訪れる機会が広がればと思います。