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2022.11.10
千代田区民の健康(歯科)を考える会にお招きいただき、『DX医療の現場と国民歯科検診の法案化に向けて』と題して、講演をさせていただきました。
■国民皆歯科検診
骨太の方針2022に「国民皆歯科検診の具体的な検討」が盛り込まれました。今後は法整備に向けて、①歯科検診が医療費削減につながることを示すエビデンスを示すとともに、②実施のための方法論の確立が課題になってきます。
昨日、自民党の国民皆歯科検診実現PTにおいて、香川県歯科医師会とサンスターから、歯科検診と医療費削減の相関性についてヒアリングが行われました。香川県の実証調査はサンプル数2万人を超える大規模なものです。歯科検診を受けている人は、受けていない人と比べて、一人当たり1年間あたり平均約9万円、最大で約13万円、医科医療費が少ない、と言う結果が出ています。
厚生労働省の来年度予算要求では、①自治体が行う口腔保健推進事業に新たに歯科検診事業を追加する、②企業等を対象に就労世代の歯科検診のモデル事業を支援する、③歯周病などの歯科疾患のリスク評価を簡易に行えるスクリーニングツールの研究開発を支援する、などの予算が盛り込まれています。
議論はまだスタートしたばかりです。論点を一つ一つ検証し、同時に「歯科検診を受けよう」という普及啓発の努力も必要です。
■医療DX
今年5月に自民党で取りまとめた『医療DX令和ビジョン2030』を基に、今後取り組むべき医療DXの柱として、①全国医療情報プラットフォームの創設、②電子カルテ情報の標準化、③診療報酬改定DX、の3つが骨太の方針に盛り込まれました。10月には総理官邸に『医療DX推進本部』が立ち上がり、来年の春までに工程表を策定するとしています。
『全国医療情報プラットフォーム』は、オンライン資格確認システム(来年4月から義務づけ)を発展的に拡充させ、レセプト・特定健診情報や、予防接種、電子処方箋の情報、自治体検診情報、電子カルテなどの情報を加えて、①患者さん本人がマイナポータルで閲覧したり、②医療機関の間で共有していくものです。歯科関連では今年の6月から、歯周疾患検診と乳幼児歯科検診の結果を本人が閲覧できるようになりました。
電子カルテ情報の標準化は、歯科だけでなく医科全体にとっても大きな課題です。厚労省では今年3月に3文書6情報を標準規格として採択しました。将来は、小規模の医療機関向けに、標準規格に準拠したクラウドベースの『標準型電子カルテ』の開発を検討しています。歯科についても、日本歯科医師会を中心に、今年7月から歯科領域の歯科電子カルテ検討会で議論が始まっています。
先日、大阪市の大阪急性期・総合医療センターが、ランサムウェアによるサイバー攻撃を受け、復旧には来年の1月までかかるとの見込み、再びこのような事態が起こらないよう万全の対策を講じる必要があります。
■学校検診PHR
PHR(personal health record)とは、一言で言うと「生涯にわたる個人の健康などの情報を、マイナポータルなどを用いて電子記録として本人や家族が正確に把握する仕組み」です。健診データだけでなく、医療機関が実施した検査や治療の医療情報記録もデータに含めることを予定しており、①自分の保健医療情報を閲覧できるという面と、②医療・介護分野での情報利活用をしやすくする、という面の両方の側面があります。文科省では、PHR推進の観点から学校健康診断を電子化し、他の健診情報と一覧性をもって提供できるよう取組を進めており、実施に向けた調査研究や自治体向けの支援の準備を進めています。
歯科医療のDX化は、本格的な取組が始まったばかりですが、セキュリティ面も合わせて着実に対応を進めていくことで、個々人の健康長寿、医療費の削減につながるものと期待しています。