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2019.09.18
新宿区歯科医師連盟の先生方が勉強会を開いてくださいました。テーマは少子化と人工知能がもたらす20年後の日本の姿について。よく「人間が人工知能に取って代わられる時代が来る」と言われますが、歯科医師の仕事は、人工知能が取って代わることができない仕事の代表例だと言われています。そこで今日は、①完全キャッシュレス時代は来るのか? ②働き方はどう変わるのか? ③税と社会保障のあり方はどう変わるのか? などのテーマを中心にお話しさせていただきました。
1.完全キャッシュレス時代は来るのか?
消費税10%を目前に話題となっている「キャッシュレス」ですが、その形態は様々です。仮想通貨は制度整備が途上であり、技術的にも決済速度が遅く電力を大量に消費するという難点があります。中央銀行がデジタル通貨の発行を検討している国もありますが、個々人の取引情報が国に集結してしまう、市中銀行がなくなり銀行の信用創造機能がなくなってしまう、という制度の根幹にかかわる問題があります。
では実際、「人々はキャッシュレスを望んでいるのか?」と考えると、答えはNoです。低金利下で現金流通量は増え続けており、日本人のタンス預金はついに50兆円を超えたとの試算もあります。
現金がすべて無くなることはない、というのが私の予想です。なぜなら現金ゼロとプライバシーゼロとは表裏一体だからです。日本には12億もの銀行口座が存在し、一人あたり平均12口座を保有する計算になります。昨年1月から銀行預金へのマイナンバー付番が任意でスタートし、義務化の可否は3年後に再検討されますが、マイナンバーによって資産も所得もすべて税務署が把握するということに、国民の理解が得られるのかは未知数です。
2.働き方はどう変わるのか?
人工知能の普及で人間は嫌な仕事から解放され、これからは「好き」を仕事にできる時代だ!というポジティブな見方がありますが、そのためには今ある労働法制を根本的に改革していく必要があります。昭和の時代につくられた終身雇用・年功序列は大きく変化しており、職種別の年金や公的医療保険の制度もひずみが大きくなっています。
近年、兼業・副業が奨励されていますが、法定時間外労働への割増賃金の未払いや、労災保険給付の算定の問題、複数の勤め先を合算して20時間以上になっても雇用保険が適用されない等、法的には様々な課題があります。「好きな時だけ、好きなことをして稼ぐ」理想の働き方?とされるシェアリング・ビジネスには、最低賃金や同一労働同一賃金などのルールがなく、労災保険や雇用保険にも入れません。働き方の多様化に合わせて、働くルールも大胆な改革を迫られています。
3.税と社会保障のあり方は?
20年近く前の話になりますが、私が米国のビジネススクールに留学した時、金融出身・理系出身でない学生がクラスの3分の1ほどいたのですが、金利や配当を計算する金融電卓を使ったことがないのは私一人だけでした。他の国の学生は、それまでの人生のどこかで金融教育を受けてきたのに、日本にはそれがないということに愕然としたのを覚えています。
老後資金2,000万円問題と公的年金の財政検証が話題になりましたが、所得代替率の将来試算が51%であろうと49%であろうと年金だけでは無理だということは明らかです。自助努力せよというのなら、国の責任で全ての国民に金融教育を行うべきだと考えます。
ご出席の先生方からは、「納税者がポジティブな意思を持って納税するためにはどのような仕組みがよいのか」、「消費税は消費の額に従って支払うものなので、頑張れば頑張るほど税負担が重くなる所得税よりもむしろ公平ではないか」などの様々なご意見を伺いました。あっという間の充実した1時間となりました。