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2025.02.01

『医療政策サミット2025』に出席

日本医療政策機構が主催するシンポジウム『医療政策サミット2025』に出席しました。テーマは「エビデンスに基づく市民主体の医療政策」について。慶応大学の北中淳子先生、岩手県立大学の杉谷和哉先生、東京科学大学の藤井達夫先生とともにパネリストを務めました。

 

近年の政策形成過程では、証拠に基づく政策形成(EBPM: Evidence Based Policy Making)への関心が高まりつつあり、多様なデータを政策形成に活かすことが期待されています。一方で、医療政策においては、患者・当事者の「声」が極めて重要です。内容的な正しさと手続的な正しさのバランスをどのように取るべきか、アカデミアと行政と政治の立場から議論を行いました。

 

 

以下は、シンポジウムの議論の中での私の発言の一部です。

 

国の一般会計予算は年々増大し、2025年に黒字化を目指していた国と地方の基礎的財政収支も4.5兆円程度の赤字となる見通しです。財源の4分の1を国債に頼る厳しい財政状況が続いていますが、今後の金利上昇を踏まえると国債による資金調達は今後ますます厳しくなります。政治も「イケイケどんどん」ではなく、限られた予算を証拠(エビデンス)に基づいて効果の高い政策に振り向けていく必要があります。

 

代表制民主主義の下での政党による合意形成に限界があることも事実であり、政策形成の中に多様な価値観を盛り込んでいくことは非常に重要です。これまでの自公政権では、いわゆる「与党プロセス」の中で、お付合いのある業界団体や、各省庁が推薦した有識者などからご意見を伺うチャネルは確立しているものの、広く一般の市民社会の意見を汲み取る仕組みにはなっていません。議論される内容も、データやエビデンスに基づく議論はほとんどなく、「地元の声」などエピソード的な定性的な発言がほとんどです。

すべての国民の声を偏りなく平等にキャッチするとしたら、究極的にはネット投票による直接民主制になるのでしょう。しかし、その方法で本当に正しい「声」を得られるのか、昨今のSNSによる世論形成の危うさを見ると甚だ疑問です。

自分の耳には直接届かない声も十分に推察して、価値判断を加えた上で、国民の「声」として発信していくのが、政治家の大切な仕事だと思っています。

 

 

価値・規範とエビデンスのバランスの取れた政策形成をするために、念頭に置くべきことが2点あると思っています。

1つは、エビデンスは万能ではない、むしろ過去のデータの蓄積が価値・規範と相反する場合があるということです。人工知能(AI)が活用するデータそのものにジェンダーバイアスがあるため、AIが意思決定するとバイアスが拡大してしまう、という問題です。例えば「社長」と言うとアルゴリズムが勝手に男性だと判断してしまう場合など。また医療分野では、治験の参加者は男性が中心であったことから、男性に効く医薬品が女性には効かない、副作用をもたらす場合もある、といった事例も報告されています。データそのものにバイアスがないか、慎重に見ていく必要があります。

もう一つは、価値・規範の問題が大きすぎてデータでは説得の材料にならない場合があることです。例えば臓器移植。移植が可能になればトータルで医療費が安くなることもありますが、脳死状態からの臓器移植には国民的な理解はまだ進んでいません。また、財務当局には「終末医療に過大な医療費をかけるべきではない」との考え方がありますが、たとえ死が間近でも、家族は高額でも薬を投与してほしいと望むでしょう。人の命、家族を思う気持ちは、データでは説得できません。医療や社会保障分野のEBPMには、こうした価値・規範の観点がとりわけ大きく必要とされると思います。

 

多様な価値観を政策に反映させるにあたっては、既存の政策形成プロセスの改革は非常にハードルが高く、むしろアカデミアと行政と政治の間での人の流動化を図るべきだと考えます。今日のようなパネルディスカッションの場から、新たな政策決定の方向性が生まれてくることを強く望んでいます。