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2023.08.31

十和田八幡平国立公園を訪問

環境省が推進する国立公園満喫プロジェクト先行8公園の一つ、十和田八幡平国立公園を訪問しました。十和田湖を訪れるのは30数年ぶり、中学3年生の時の修学旅行以来です。
十和田八甲田地域は昭和11年、八幡平地域は昭和31年に指定された伝統ある国立公園であり、東北一の観光地に成長しましたが、平成6年の年間1,147万人をピークに観光客が減少しています。
先月、十和田八幡平国立公園の十和田湖地域は、環境省による国立公園における滞在体験の魅力向上のための先端モデル事業に選定されました。北東北観光の宿泊拠点となるよう、重点的な取組が始まります。

 

 

 

■奥入瀬渓流
カルデラ湖である十和田湖から流れ出ている約14kmにわたる渓流。流域の大部分が特別保護地区であり、渓流に沿って車道と歩道が整備されています。美しい緑の木々と清流の中を散策し、静謐な気持ちになりました。
青森県ではバイパスのトンネルを建設中で、完成後は奥入瀬渓流への車両乗り入れを規制、『歩く奥入瀬』を目指しているとのこと。

 

 

 

 

■十和田湖の歴史
早朝6時から地元の観光ガイドさんの案内で十和田湖畔を散策するツアーがあります。湖畔に立つ『乙女の像』は修学旅行の時以来の再会です。
二重カルデラによる巨大な大自然の魅力もさることながら、十和田湖は信仰の対象としても長い歴史があります。明治初期に人が住み始める以前から霊山として多くの参拝者が訪れ、近年、湖畔に近い湖の底から参拝者の投げ銭が大量に発見されたそうです。その後、鉱山労働者が住むようになり、食糧としてヒメマスの養殖が始まったそうです。
自然景観の維持はもちろん、歴史や文化を探求することは、将来の十和田湖観光のあり方を考えていく上で大きな鍵となると思います。

 

 

 

 

■休屋地区の廃屋の撤去
休屋地区は、十和田湖畔の随一の利用拠点として旅館や売店が集中し、バスや遊覧船の発着地点にもなっています。平成10年代から利用者が減少し、東日本大震災の影響もあって大型ホテル等の休廃業が一気に進みました。廃屋となった休廃業施設が景観を損ねていることが地域の課題となっており、環境省では、廃屋の撤去を進め、跡地の有効活用について地域の方々や民間事業者と対話を進めています。
土地の所有者は環境省ですが、建物の所有者が自ら休廃業施設の撤去を行う意思がない場合、形式的には環境省が建物所有者を相手に訴訟を起こす等の手続が必要となります。多くの方々の協力と、時間が必要な仕事です。
私が30数年前に修学旅行でお世話になったホテルは既に撤去が終わってさら地になっており、つい先日には地域の盆踊りが行われ、近々マルシェも予定されているとのこと。再興に向けて地道な取組が進んでいます。

 

 

 

 

■蔦(つた)野鳥の森
十和田八幡平国立公園の蔦野鳥の森にある蔦沼は、水面に映る美しい紅葉がテレビやインスタグラムで紹介されたのをきっかけに、紅葉期の日の出の時間帯に路上駐車や歩道外への立入など大混雑が発生するようになりました。環境省も参画する地域協議会において検討がなされ、早朝を完全事前予約制とするとともに、渋滞対策・環境保全協力金を上乗せ設定するなどして、オーバーツーリズムの抑制を図っています。利用者の方々からは「場所取り合戦で嫌な思いをしなくて済むようになった」など前向きなご意見が寄せられているとのこと。協力金による収入は、渋滞対策・環境保全の費用に役立てられるほか、観光客への自然解説の強化に充てることも検討されているそうです。

 

 

 

■酸ヶ湯(すかゆ)温泉
八甲田山というと厳しい冬山のイメージがありますが、実際にはロープウェイも整備され、夏山は一般の観光客でも美しい景観の中で山歩きを十分満喫できる場所です。
八甲田登山ルートの近くにある酸ヶ湯温泉は、古くから湯治場として有名であり、混浴で有名な『ヒバ千人風呂』には、昭和の面影を残す宿泊施設や宴会場が併設されており、木造建築物としても高い価値があります。地域の伝統である混浴文化を守りたい一方で、特に女性の湯治客にとっては抵抗感が強いため、時間を限定して女性専用にしたり、男女共に湯あみ着を着用する日を設けるなど様々な取組が行われています。

 

 

 

 

滞在時間1日の慌しい出張でしたが、十和田八幡平の大自然に圧倒され、北東北の重厚な歴史・文化を垣間見た貴重な体験となりました。国立公園の滞在は、自分を日常から切り離し、自分を相対化させ、生きている意味を改めて考える経験でもあります。一人でも多くの方にこの体験を共有していただくにあたって、課題となるのは東京からの時間距離です。往復の時間を考えると1週間は休暇が欲しいところですが、まる1週間全く仕事に触れずにいられる方は少ないのではないでしょうか。旅先で仕事をする『ワーケーション』は、決して夢物語ではなく、現代人が心身ともに健康に仕事をしていくには、むしろ必要な取組だと感じています。それには安定したWiFiの整備などを進める必要があります。
バブル期以降失われてしまった十和田湖の賑わいを取り戻すには時間がかかります。日本経済全体が物価高、燃料高、人手不足、インバウンド減少など逆境の下で再活性化を進めるのは容易ではありませんが、一方で、昔のように大勢の観光客に戻ってきてもらうのが目標なのではないようにも感じます。5年10年という大変長い期間の仕事ですが、着実な歩みが始まっており、次に訪れた時にどんな姿になっているかが楽しみでもあります。