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2021.07.20
製薬企業の方々を対象にした勉強会「PMセミナー」で、『ポストコロナの政策課題と製薬産業の未来』と題して、オンライン講演の機会をいただきました。私が医薬品産業とご縁をいただいたのは、経営コンサルティング会社に勤めていた時に、国内外の製薬企業の営業改善やPMI(M&A後の組織統合)に関わったのが始まりです。今も自民党の創薬力PT、ライフサイエンス勉強会、ジェネリックの議員連盟などに参加しています。
コロナ以降の国際情勢の変化(特に中国)と、国内の政治課題(財政、デジタル化、環境、エネルギー政策など)についてお話しした後、「日本の創薬は国際競争力を維持できるのか?」という問題について意見を述べました。
米国のファイザー社がワクチン開発に成功するまでの経緯をまとめた『Mission Possible – The Race for a Vaccine』というドキュメンタリーがあります。米国の製薬会社にできたことが、なぜ日本でできなかったのかを知りたくて拝聴しましたが、多くの発見がありました。
まず開発に際して、ファイザー社は外部からの圧力に晒されないよう公的資金の支援を受けなかったこと。そして通常なら開発から販売まで10年以上かかるプロセスを数ヵ月に短縮するために、①研究開発、②治験、③製造の3段階を同時並行で実施したこと。薬事承認が下りた瞬間に出荷のトラックが走り出す映像は圧巻であり、リスクを取れる資金的な体力の強さを見せつけられました。
日本ではそもそも、危険性の高い感染症の病原体を扱える研究施設が殆どありませんでした。私は6年前に国立感染研究所の武蔵村山研究所を訪れましたが、1981年に設立されたものの住民の方々の反対で30年以上稼働できず施設が老朽化してしまった苦い過去があります。いま建設が進められている長崎大学の新しい研究施設に期待が集まっています。
ワクチン製造段階で成功のカギとなったのは、製薬以外の製造業との協力体制です。ファイザー製ワクチンを運ぶ-70℃の輸送用冷蔵庫は自社では製造できず、医療とは全く関係ない業界から協力相手が見つかったことが奇跡だった、との話がありました。
PCR検査においても、イギリスでは検査数を増やすためにNHS(国民保健サービス)がオンラインのクラウド・アウトソーシングを実施して、民間からあらゆる知見を集めました。日本でも、各省庁を通じて所管の業界に照会するようなやり方ではなく、幅広く柔軟に人や技術を集めるオープン・イノベーションを取り入れるべきだと考えます。
こうして見ていくと、現段階で日本国内でワクチン開発ができていない理由は、日本企業よりも米国企業の方が優秀だったという訳では決してなくて、日本の体制や制度に起因する問題が殆どであり、責任はむしろ国にあるのではないかと感じます。先月、自民党においても将来の医薬品開発に向けて様々な提言をとりまとめましたが、実行に移すためには行政の改革も必要です。
日本の製薬企業でグローバルに活躍されている方から、こんなお話を伺いました。「政府は日本の成長産業はデジタルとグリーン(温暖化対策)とヘルスケアだと言っているが、デジタルとグリーンは世界の潮流からみれば周回遅れ。でもヘルスケアはまだ挽回の余地がある。」私はデジタルとグリーンも諦めませんが、日本の製薬業界が再び世界のトップに立ってほしいと願っています。